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東京地方裁判所 平成11年(ワ)23456号 判決

原告 武者充緒

右訴訟代理人弁護士 渡辺憲司

被告 ユニオントレード株式会社

右代表者代表取締役 佐藤一郎

右代理人支配人 新川憲

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載(一)の土地について別紙登記目録記載(一)の根抵当権設定仮登記の、別紙物件目録記載(二)の建物について別紙登記目録記載(二)の根抵当権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

主文第一項と同旨

第二事案の概要

一  本件訴訟の概要及び原告の主張内容の骨子

1  本件訴訟の概要

本件は、貸金業者である被告から借入をした原告が、利息制限法による弁済金の元本充当並びに相殺及び弁済による借入金債務の消滅を主張して、被告のために原告所有の土地建物に設定された根抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求めた事案である。これに対し被告は、貸金業法四三条の規定によるみなし弁済を主張して、原告の被告に対する借入金債務は消滅していないとして、原告の請求を争った。

2  原告の主張内容の骨子

原告は、主位的に別紙Aの支払表(1) 及び(2) のとおりの充当計算に基づき原告の被告に対する借入金債務は消滅したと主張し、予備的に別紙Bの支払表(1) 及び(2) のとおりの充当計算に基づき右借入金債務は消滅したと主張した。

二  争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は、争いのない事実である。)

1  原告は、別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録記載(二)の建物(以下「本件建物」という。本件土地と本件建物とを併せて「本件不動産」という。)を所有している。

2  本件土地には別紙登記目録記載(一)の根抵当権設定仮登記(以下「本件仮登記(一)」という。)が、本件建物には別紙登記目録記載(二)の根抵当権設定仮登記(以下「本件仮登記(二)」という。)がそれぞれされている。

3  被告は金銭の貸付等を業とする株式会社であるところ、原告は被告から次のとおり金銭を借り入れた(以下次の(一)の借入を「本件借入(一)」、同借入に係る借入金を「本件借入金(一)」といい、(二)の借入を「本件借入(二)」、同借入に係る借入金を「本件借入金(二)」という。)。

(一) 借入日 平成六年一〇月二〇日

金額 二五〇万円

弁済期 平成一一年一一月一〇日

弁済方法 元利均等払(毎月一〇日限り支払う。)

利息 年二四パーセント

損害金 年四〇パーセント

(二) 借入日 平成八年六月一八日

金額 三〇〇万円

弁済期 平成一三年六月三〇日

弁済方法 元利均等払(毎月三〇日限り支払う。)

利息 年二四パーセント

損害金 年四〇パーセント

4(一)  原告は、本件借入(一)について、被告に対し別紙Eの計算書(1) の各年月日欄記載の年月日に同返済額欄記載の各金員を支払った。

(二)  原告は、本件借入(二)について、被告に対し別紙Eの計算書(2) の各年月日欄記載の年月日に同返済額欄記載の各金員を支払った。

5  原告は、被告に対し、平成一一年一〇月一二日付け・同月一三日到達の書面で、原告の被告に対する本件借入(一)に係る八九万〇九七六円の不当利得返還請求権を自働債権とし、被告の原告に対する本件借入(二)に係る貸付金債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をした。

6  原告は、平成一一年一〇月一二日に被告に対し三一万六五一一円を支払った。

7  原告は、平成一二年五月二六日に被告に対し二九万六六〇六円を支払った(弁論の全趣旨)。

三  争点及び当事者の主張

1  原告が、本件借入(一)について平成七年八月一〇日の経過をもって期限の利益を喪失し、また、本件借入(二)について平成八年一一月三〇日の経過をもって期限の利益を喪失したか。

(一) 被告の主張

原告は、本件借入(一)について、平成七年八月一〇日限り支払うべき元利金の支払を怠ったので、同日の経過をもって期限の利益を喪失した。

また、原告は、本件借入(二)について、平成八年一一月三〇日限り支払うべき元利金の支払を怠ったので、同日の経過をもって期限の利益を喪失した。

(二) 原告の主張

(1)  期限の利益喪失の主張が許されないことについて

原告は、被告が損害金の請求をした平成一〇年五月六日まで約定どおりの金額を支払ってきた(本件借入(一)について約二年半以上、本件借入(二)について約一年半)。

被告はこれに対し何らの異議を述べることなく受領し、期限の利益喪失の主張をしなかったのであるから、遡って期限の利益の喪失を主張することはできない(甲七から九参照)。

(2)  期限の利益を喪失しない旨の黙示の合意

また、右の経過によれば、原告と被告間において期限の利益を喪失しないという黙示の合意が成立したものというべきである。

(3)  原告の主張に対する被告の反論

原告の右各主張は争う。

甲五、六には、弁済金が損害金に充当されていることが明記されており、期限の利益を喪失しないとの合意が成立したことはない。

2  原告の本件借入(一)及び(二)に係る弁済が貸金業法四三条のみなし弁済の適用を受けるか。

(一) 被告の主張

(1)  受取証書の交付

(ア) 本件借入(一)、(二)に係る原告の支払は、貸金業法四三条のみなし弁済の適用を受けるものである。

被告は、原告から本件借入金(一)及び(二)についてそれぞれ乙一、二記載の弁済を受けた都度、原告に対し貸金業法一八条の受取証書とそれの受領書(甲五、六と同様のもの)を、受領書は記名のうえ返送してくれるよう書き添えて送付した。しかし、原告はこれを返送してこなかった。原告によれば、捨ててしまったりなくしてしまったりして一枚も残っていないということであったので、受取証書交付の事実と取引経過、残高の確認のため乙一、二の確認証を作成したものである。

乙一、二は、原告の各支払が貸金業法四三条一項二号の支払に該当することを証するものである。

(イ) また、被告は原告に対し貸金業法一七条の書面を交付するなど、みなし弁済の適用を受ける他の要件を備えている(乙三から九まで)。

(ウ) したがって、平成一一年一〇月一二日における原告の本件借入金(一)、(二)の各残金は、別紙Cの「武者充緒様取引明細書(一)」及び「武者充緒様取引明細書(二)」のとおり、本件借入金(一)が二三四万七四八五円(元金二二九万五三二七円、利息・損害金五万二一五八円)、本件借入金(二)が三二六万三五五四円(元金二八九万四五三六円、利息・損害金三六万九〇一八円)である。

(2)  無効の追認

(ア) 貸金業法四三条のみなし弁済の規定は、当該弁済が同条に適合する弁済であるときは、特段の事情のある場合を除きその都度直ちに領収書を交付することを停止条件として、利息制限法超過部分についてもこれを有効とみなすものである。したがって、債務者は、同法四三条に適合する弁済をし、適法な領収書の交付を受けた後は、右超過部分の弁済の無効を主張することができなくなるのである。

(イ) このことは、その弁済が無効であることを知りながらこれを追認したときも同様と解すべきである。

乙一、二には利息制限法を超える約定の利率が明示されているから、原告はその超過部分の弁済が無効であることを知りながら、これを追認したものである。

(3)  和解の成立

みなし弁済が認められるために受取証書の交付が必要とされるのは、債務の具体的把握に基づく債務者の債権者に対する権利主張のためであるから、債務内容を具体的に把握したうえでの弁済又は債務の承認は、受取証書の交付を要せず有効な弁済とみなされる。

原告は、債務内容を具体的に把握したうえで、被告と残債務額を乙一、二のとおりとする和解を成立させたのであるから、本件弁済はみなし弁済の適用を受けるべきものである。したがって、右和解により、平成一一年九月六日時点の残債務は乙一、二のとおり合計五七一万〇二八八円と確定したのである。

(4)  受取証書不交付の場合のみなし弁済の適用

原告は、乙五、六により利息・元本への充当関係、債務内容をあらかじめ具体的に把握したうえで任意にされたものである。原告の右弁済は、右の範囲では、受取証書の交付を待つまでもなく、みなし弁済の適用を受けるものというべきである。

このように、原告が平成一〇年五月六日までは約定どおりの弁済をするとの意思をもって支払を続けてきたものとして計算すると、平成一二年四月一四日現在の原告の被告に対する残債務は、別紙Dの計算書(一)及び(二)のとおり合計二七七万九〇一七円である。

(二) 被告の主張に対する原告の反論

(1)  被告の主張(1) (受取証書の交付)について

原告と被告との間で乙一、二の各確認証が作成されているが、この作成日は平成一一年九月六日であって、このような書類は貸金業法四三条のみなし弁済の適用を受ける書類ではない。

原告が本件借入(一)、(二)に対する返済について領収書の発行を受けたのは平成一〇年五月六日付けのものが初めてであり、しかもこの段階になって初めて、本件借入(一)については平成七年九月一二日から平成一〇年五月六日まで九六八日間の、本件借入(二)については平成八年一二月一日から平成一〇年五月六日まで五二二日間の損害金四〇パーセントの計算をしている(甲五、六)。しかし、このような処理は許されない。

したがって、平成一〇年五月六日付け受取証書以前における原告の支払についてみなし弁済の適用はない。

(2)  被告の主張(2) (無効の追認)について

貸金業法のみなし弁済の規定は、元来無効であるが、一定の条件の下でこれを有効にする規定であり、これを当事者の意思(追認)によって有効とすることはできない。

(3)  被告の主張(3) (和解の成立)について

被告の右主張は争う。

(4)  被告の主張(4) (受取証書不交付の場合のみなし弁済の適用)について

被告の右主張も争う。

みなし弁済の適用を受けるためには、貸金業法一七条(契約書面)及び一八条(受取書面)の各書面双方の交付が必須要件となっており、これを除外する例外規定はない。被告の主張は、強行規定である同法一八条の規定を全く無意味にするもので理由がない。

第三当裁判所の判断

一  甲五、六のような受取証書がいつから原告に交付されていたかが本件の重要な前提問題であるから、最初にこの点について判断する。

1  原告は、被告から原告に対し受取証書が交付されたのは平成一〇年五月六日付けの甲五(本件借入(一)関係)及び六(本件借入(二)関係)が最初であると主張しているのに対し、被告は、各借入についてそれぞれ最初の支払(本件借入(一)について平成六年一一月一〇日の支払、本件借入(二)について平成八年七月一日の支払)から各受取証書を交付したと主張している。

2  証拠(証人張沢勲)によれば、被告は、顧客から支払を受けた場合には、<1>被告の控えの領収書、<2>顧客が受け取り保管する領収書、<3>領収書を顧客が受け取った旨の署名捺印をして被告に送り返す領収書の三枚が一セットになった領収書用紙に必要事項を記入し、捺印して、<1>の被告の控えの領収書を残して、他の二枚を切り取り、<3>の領収書と顧客へ送付するための封筒のコピーをとり、右封筒に<2>と<3>の領収書と書類送付案内を入れて顧客に普通郵便で送付し、<2>の領収書を顧客から返送してもらう態勢をとっていたことが認められる。そして、本件訴訟において被告から証拠提出されているこれら<3>の領収書及び封筒のコピーのうち最も日付が前のものは平成一〇年一〇月三〇日の支払に係る領収書(乙一〇七の1)及び封筒(乙一〇七の2)であるから、これより前の支払に係る領収書や封筒の各コピーは現在は被告の手許に存在しないものと認められる。

この点に関し、証人張沢は、本件証人尋問において次のように証言している。すなわち、被告では、被告の控えの領収書はそれだけで保管し、顧客に送付した領収書や封筒の各コピーはこれとは別に顧客ごとにファイリングして保管していたが、これらのコピーの量が多くなると古いものをさらに別保管とするため、古いコピーが紛失したのではないか、というのである。

3  しかし、右の領収書は、貸金業法四三条のみなし弁済の適用を受けるために必須な同法一八条所定の受取証書であるから、これを顧客に交付したことを立証するための前記コピーは被告のような貸金業者にとって極めて重要な資料であるといえる。したがって、このような資料全体を右のように三元的な方法で保管していたということ、特に古い資料を右のようにぞんざいに保管していたということは、直ちには了解しがたい。

のみならず、受取証書を顧客に送付したことは、書留郵便に付することにより容易に、かつ、コピーよりもはるかに少ないスペースで資料を保管することができるのであり、また、貸金業法四三条のみなし弁済の規定は、厳格な要件の下に利息制限法の規制を超過する一定の利息・損害金の支払を適法な利息・損害金とみなすものであるから、これらの点からしても、受取証書の交付については貸金業者に対し厳格な立証を要求するのが妥当である。

4  原告は、本人尋問及び甲一一の陳述書において、平成一〇年五月六日の弁済について初めて領収書(甲五、六)が被告から送付されてきたので、どういうことなのかを被告の担当者の張沢に問い合わせたところ、張沢からは、さかのぼって四〇パーセントの利息になります、との説明を受け、内心、そんなに利息が高くなるのか、大変だな、早く返済しなくては、と思った旨供述している。この供述に対し、張沢証人は、利率が上がったことについて原告から問合せを受けたことがあることを認めるとともに、明確ではないが、入金が約束より遅れた時から一定期間さかのぼって高い利率で計算した旨を説明したことを、半ば認めているものと解することができる(同証人調書反訳書二七、二八頁)。

また、被告の主張どおりであるとすれば、平成七年八月一一日以降は本件借入(一)の利率は年四〇パーセントになったのに(乙一九)、本件借入(二)の利率は、平成八年一一月三〇日までは年二四パーセントのままであったことになる(乙四〇)。しかし、原告は、厳密に約定期日を守っていなかったものの、おおむね毎月予定されていた返済額を振り込んで返済していたのであるから、仮にこのような変則的な金利状態になったとすれば、問合せをするなど何らかの対応をとるのが通常であると考えられるが、原告がこの点を問題にした形跡は本件証拠上うかがうことができない。したがって、この点からは、右のような金利の違いは当時原告に知らされていなかった疑いが生じるものといえる。

そうすると、原告の右供述は、その信用性を否定しがたいといわなければならない。

5  さらに、本件の損害金の充当の方法は、やや特殊な方法でされているものといえる。本件借入(一)を例にとれば、この借入の損害金起算日は常に平成七年九月一二日に固定させ、平成一〇年五月六日の弁済でみれば、同日までの九六八日間に対応する年四〇パーセントの損害金を計算し、その期間内の弁済金の総額を損害金の総額から差し引いて損害金の残債務を算出している(甲五、乙七三)。この点は本件借入(二)についても同様である。

この点から直ちに一定の結論が導かれるものではないが、この計算方法はさかのぼって計算しなおす場合には大変便利な方法であると考えられ、前述のその他の事情と併せてみれば、やはり被告の主張を疑う一つの事情であるといわざるをえない。

6  以上の諸事情を併せ考えると、被告から平成一〇年五月六日の支払よりも前の支払に係る領収書として証拠提出された各書証は、これによりその各領収書が原告に交付されたことを立証するに足りないし、被告の主張に沿う乙一三一及び張沢証言も採用することはできないというべきである。また、以上の事情に照らしてみると、乙一、二によっても、右各領収書が支払の都度原告に交付されていたことを認めることはできない。

よって、平成一〇年五月六日の支払よりも前の支払について被告が貸金業法一八条所定の受取証書を支払の都度原告に交付していたものと認めることはできない。

二  争点1(期限の利益の喪失時期)について

1  右の説示によれば、被告が原告に初めて期限の利益の喪失を前提にした四〇パーセントの利率適用の意思を表示したのは平成一〇年五月六日の弁済に係る領収書(甲五、六)を交付した時であったと認められる。それまでは、原告は約定弁済日(本件借入(一)について毎月一〇日、本件借入(二)について毎月三〇日)に時々遅れながらも、ほぼ毎月返済表(乙五、八)の通りの金額を被告宛て送金していたものであり、被告はこれに対し特段の意思表示をすることなくこれを受領していたものであるから、被告は、約定利率年二四パーセントの適用を受けたいという支払ごとの原告の意思表示を支払ごとに受け入れていたものと認めるのが相当である。したがって、原告の弁済が約定期日に遅れた場合であっても、原告と被告との間でその都度期限の利益を喪失しないとの黙示の合意が成立していたものと認めるのが相当である。よって、平成一〇年五月六日の弁済までは、原告は期限の利益を喪失していないというべきである。

2  ところが、被告は、甲五及び六を原告に送付したことにより、原告が約定弁済日に支払をしなかった場合には約定(乙四、七の各金銭消費貸借契約証書の二条一号)どおり期限の利益を喪失したとの処理をする旨の意思を表示したものというべきであるから、右の支払以降において原告が弁済期日における支払を遅滞した場合には、原告は期限の利益を喪失するものというべきである。

しかして、本件借入(一)については、前記「争いのない事実等」の4(一)の事実に乙五を併せると、平成一〇年五月六日の支払は同年五月一〇日が弁済期日の支払に相当するから、右支払の時には原告は期限の利益を喪失していないものと認められる。しかし、原告は、同年六月一〇日の弁済期日の支払については、これを同年六月二六日に支払ったものであるから、この分の支払を遅滞したことにより原告は期限の利益を喪失したものというべきである。

次に、本件借入(二)については、前記「争いのない事実等」の4(二)の事実に乙八を併せると、平成一〇年五月六日の支払は、その回数からみると同年三月三〇日に支払うべき分に該当するから、原告は客観的には既に遅滞の状態にあったということができる。そこで、平成一〇年五月六日の段階で、同年四月三〇日に支払をすべき分までが完済されたとすれば、原告が期限の利益を喪失することはないと解されるが、現実には同年五月六日の支払は四月三〇日に支払をすべき分に満たなかったのであるから、被告が甲六を原告に交付したことにより、原告は四月三〇日の経過をもって期限の利益を喪失したものというべきである。

以上によれば、原告には、本件借入(一)については平成一〇年六月二六日の支払から、本件借入(二)については同年五月六日の支払から、それぞれ遅延損害金を支払う義務があるということになる。

三  争点2(貸金業法四三条のみなし弁済の適用の有無)について

1  証拠(甲五、六、乙一〇七から一一九の各1、2、一二〇、一二一の1、2、一二二から一二七、原告、証人張沢)と弁論の全趣旨によれば、平成一〇年五月六日の支払以降においては、被告は原告から銀行振込による支払があり次第その都度直ちに領収書を原告に送付したこと、その領収書はいずれも貸金業法一八条の要件を満たしていること、被告は原告に対し貸金業法一七条に定める契約書面を交付していることが認められる。

しかして、前示のとおり、被告は平成一〇年五月六日の支払に係る領収書を原告に交付することによって、原告に対し、今後の遅滞については契約どおり期限の利益喪失として扱い約定の損害金四〇パーセントを受領する旨を通知したものといえるところ、証拠(原告)によれば、原告は直ちに被告に問い合わせてその意味を了知したものであるから、その後の原告の支払は、原告において支払った金員が約定損害金に充当されるのもやむをえないとの認識の下でしたものと認めることができる。

したがって、本件借入(一)についての平成一〇年六月二六日の支払以降の支払は、いずれも貸金業法四三条のみなし弁済の適用を受け、被告は約定利率四〇パーセントの割合で損害金を受領することができるものと認められる。

しかし、本件借入(二)については、平成一〇年五月六日の支払は、約定利率年四〇パーセントの損害金への充当を全く想定していなかったから、右支払は「債務者が(超過)損害金として任意に支払った」ものということはできない。したがって、この支払については被告は利息制限法の制限内の三〇パーセントの損害金を受領することができるのみであり、その後の同年六月三日の支払以降の支払について約定の四〇パーセントの損害金を受領することができるというべきである。

これを前提に、充当の計算をすると、別紙Eのとおり、本件借入(一)については平成一一年九月一〇日の時点で九七万九〇八八円の過払が生じており、他方本件借入(二)については平成一一年八月三一日の時点で一四七万四六四九円の元本債務が残存していたものと認められる(なお、平成一一年一〇月一二日に原告から被告に対し合計三一万六五一一円が支払われたが、証拠(甲三の1)によれば、右支払は、超過利息・損害金に対する充当を拒否したうえでされたものであるから、貸金業法四三条の要件を満たさない。よって、同条の適用を受ける支払は前記各時点までの各支払である。)。

2  被告はこの点に関し種々主張する(前記第二の三2(一)の(1) から(4) )ので、以下において判断する。

(一) 前記第二の三2(一)(1) の被告の主張(以下「被告の主張(1) 」という。)について

前示のとおり、乙一及び二によって、被告が原告に対し各受取証書を交付したことが立証されているということはできない。

また、乙一及び二には「領収証の受取証未返却のものについては本書をもってこれに代えるものとします。」との記載があるが、貸金業法四三条は法一八条の受取証書の交付をみなし弁済の要件としているのであり、乙一、二のような確認証をこの受取証書に代えることは許されない。

(二) 被告の主張(2) について

貸金業法四三条のみなし弁済の規定は、同条の要件のある場合に限って例外的に超過利息・損害金を適法な弁済とみなすとしているものであって、被告の主張のように債務者においてその弁済が無効であることを知りながら追認したとしても、同条の適用を受けることはできない。

(三) 被告の主張(3) について

右(二)に説示したと同様の理由により、被告の主張するような和解によっても貸金業法四三条の適用を受けることはできない。

(四) 被告の主張(4) について

被告の主張するような事情によって貸金業法四三条の適用を受けることはできない。

四  原告の請求の当否

1  前記「争いのない事実等」の4の事実によれば、原告は、平成一一年一〇月一三日に、被告に対し、本件借入(一)における原告の被告に対する過払金返還請求権を自働債権とし、本件借入(二)における被告の原告に対する残債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をしたものと認められるから、この相殺により、相殺適状となった同年九月一〇日時点で本件借入(二)に係る被告の原告に対する貸金債権は、過払金の額だけ減少したものといえる。同日現在の本件借入(二)に係る被告の原告に対する残債権は合計一四八万六七六九円(元金一四七万四六四九円、損害金(期間一〇日、利率三〇パーセント)一万二一二〇円)であるから、右相殺によって同日現在で本件借入金(二)として五〇万七六八一円の元金債権が残存するに至ったというべきである。

そして原告は、平成一一年一〇月一二日に本件借入(二)に対する弁済として三一万六五一一円を支払った(「争いのない事実等」5)ところ、同日現在の本件借入(二)の残債務は合計五二万一〇三三円(元金五〇万七六八一円、損害金(期間三二日、年三〇パーセント)一万三三五二円)であるから、本件借入(二)の残元金は二〇万四五二二円になったということができる。

その後原告は平成一二年五月二六日に二九万六六〇六円を支払った(「争いのない事実等」7)ところ、同日現在の本件借入(二)の残債務は合計二四万二六一三円(元金二〇万四五二二円、損害金(期間二二七日、年三〇パーセント)三万八〇九一円)であるから、結局右支払により被告の原告に対する本件借入金(二)はすべて消滅したものというべきである。

2  本件仮登記(一)、(二)は、根抵当権設定契約に基づくものであるが、遅くとも本件訴えの提起の時には原告と被告との間においては元本の生ずることがなくなっていたことは明らかであるから、この時には右根抵当権の担保すべき元本は確定したものというべきである。

そして、右のとおり、平成一二年五月二六日には右根抵当権によって担保される被告の原告に対する債権はすべて消滅したから、被告は原告に対し本件仮登記(一)、(二)を抹消する義務がある。

よって、原告の被告に対する本件仮登記(一)、(二)の抹消登記手続請求はいずれも理由がある。

第四結論

以上の次第で、原告の請求をいずれも正当として認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩田好二)

(別紙) 物件目録

(一) (土地)

所在 宝塚市中山五月台三丁目

地番 九番一〇

地目 宅地

地積 一四六・〇三平方メートル

右のうち共有持分一〇分の七(共有者 武者充緒)

(二) (建物)

所在 宝塚市中山五月台三丁目九番地一〇

家屋番号 九番一〇

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 六四・三九平方メートル

二階 五六・二三平方メートル

右のうち共有持分一〇分の一(共有者 武者充緒)

(別紙) 登記目録

(一) 神戸地方法務局宝塚出張所平成八年一一月八日受付第三五一七七号武者充緒持分根抵当権設定仮登記

(二) 神戸地方法務局宝塚出張所平成八年一一月八日受付第三五一七八号武者充緒持分根抵当権設定仮登記

以上

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